すべての大学は、その設置形態の如何を問わず共通の本質を有している。また、日本の公立大学はきわめて多様であるため、公立大学一般についてその特性を語ることは容易ではない。しかしこの大学改革の時代においては、公立大学の独自性、つまりは公立大学らしさというものを、関係者が積極的に自覚し展開しようとしない限り、その存在意義はますます希薄化し、公立大学の生き残りは困難になるであろう。
これからの分権の時代においては、何が公共利益かということについての地域自律的選択が基本になる。地域の大学としての公立大学は、従来のような安易な国立大学準拠路線をとるのではなく、国立大学とも私立大学とも異なる第三の途を創造的に選択していくことが可能かつ必要になると考えるべきである。
地域に根ざした存在であるということは、あらゆる公立大学にとって本質的な条件と言わなければならない。また、公立大学において展開する教育研究それ自体が、地域とのつながりを最大の特徴としていくことが望まれる。
国立大学の独立行政法人化ないし国立大学法人化は、公立大学に対しても大きな影響を与えざるを得ない。独立行政法人という制度形態自体は、大学の本来の機能に適合的とは言えないが、大学の特性と自主性に十分配慮しつつ、管理運営の自律性を強化する制度技術に修正され得るならば、その実質的趣旨を公立大学の設置形態に活用していくことも考えられる。公立大学および設置者は、そのような大学の自律性強化の方式として、①自治体が大学を設置することの公共的意義の確認、②自治体からの安定的な財政支出の保障、③大学の組織的経営的自律性の強化の3点を軸に、公立大学に最もふさわしい組織形態を検討していくことが望まれる。
大学運営に求められる効率性は、もっぱら経済効率性の意味に理解されてはならない。大学には大学独自の効率性基準があるはずであり、このことは大学固有の職員や事務局を持てない公立大学にとってとりわけ切実であるため、大学の側から長期展望に即した判断基準を提示していく必要がある。
また大学の管理運営は自主・自律を基本としなければならないのは当然であるが、当然に学内外の批判に開かれたものでなければならない。管理運営上の改善を進めるとともに、公立大学特有の事情として、情報公開、住民訴訟など、住民自治的な監視と参加の制度の下にあることも自覚する必要があり、地域に根ざす公立大学としての意識改革を遂げることが必要である。
上記のような構成によって公立大学財政の収支構造を分析した。13のオリジナルな図も作成した。公立大学財政の全体的な姿と特徴が伝わるように努力した積もりである。公立大学財政に全体として極めて重要な役割を果たしているのが地方交付税交付金である。この交付金の役割については、「経常経費-授業料収入」の半額が算入基準であるとの自治省の言明にもとづきマクロ的な分析を試みた。また、6つの系に分けて決められている学生1人当たりの算入単価が学部別の収支構造にどう影響しているかを作図によって明らかにした。
公立大学の財源は、主として設置者団体である自治体からの一般財源と学生が納付する授業料などの納付金によって賄われている。大学によって一般財源の支出には大きな差があり、比較的多額の一般財源を支出している大学もあれば、比較的少ない一般財源を支出している大学もある。
自治体の一般財源は地方税と地方交付税を主な原資としているが、地方交付税の交付にあたっては、基準財政需要額の算定が行われる。公立大学の場合、その算定式はやや複雑であるが、実際には医科系、歯科系、理科系、文科系、家政系、芸術系の6系統に分けて学生一人当たりの単価を定めて算定されている。この単価については、最近あまり引き上げが行われず、また医科系、歯科系などと文科系などとの格差が大きいことが指摘されている。
公立大学の基準財政需要額の算定額は、さしあたり設置者である自治体に地方交付税を交付するための算定基準であるが、単に財政上の算定基準にとどまらず、公立大学の教員の数であるとかあるいはその他の教育条件のガイドライン的な意味をももっている。それは国は定めている公立大学の研究・教育条件の基準といってもよいであろう。このことは医科系のように、地方交付税の基準財政需要額の算定基準の高い大学においては、実際の支出においても、概ね学生数に対して相対的に多くの専任教員が配置されているというデータからも裏付けることができる。また交付税の基準と授業料の額とも重要な相関関係がある。授業料が引き上げられると交付税は引き上げられず、授業料が引き上げられない場合には、交付税が引き上げられるという関係になっている。学生の教育の機会均等を保障するという趣旨からも、交付税の基準の引き上げに努められるべきである。
したがって、公立大学の基準財政需要額の単価の妥当性については、もっと多くの大学関係者が関心をもち、その改善に努力することが必要である。実際の基準は最終的には、自治省の交付税担当部局で決定されているが、そのさい文部省から提供された公立大学の決算資料をもとに、各系統ごとに平均的な経常費の決算数値を出し、それから授業料等の納付金を差し引き、その差し引いた残りの数値に2分の1をかけて、その数値に達しない場合には、引き上げるという方法がとられている。しかし地方交付税の性格が自治体の標準的な行政を維持するための財源保障であるということから考えても、平均的な経常費の2分の1を基準にすること自体、あまりにも低すぎるといわざるをえない。また肝心の文部省の決算資料が十分に公開されていないことも問題である。
そこで公立大学の重要な財源である地方交付税について、改善をしていくために、①交付税の算定に関する資料・情報の公開、②交付税の算定にかかわる公立大学の系統の見直し、③交付税の算入基準の引き上げによる授業料の抑制、④公立大学の交付税の算定のさいの実質的な基準になっている経常費2分の1の基準の改善、⑤著しく交付税基準の単価の低い系統の単価の引き上げ、⑥交付税基準を下回る一般財源支出を行っている場合はその改善を行うなど、6点を改善提案を提起した。
1990年代から2000年代に入った今日にかけて、わが国における学術研究の高度化・国際化は急速に進行し、他方その直接の担い手の育成と社会的基盤の構築とに関わる高等教育の継続的改革が一層強く要請されている。その中で、学術研究と高等教育の重要な一翼を担う公立大学の予算運用は、設置形態を異にする大学、とりわけ国立大学に比べ、多くの困難に直面している。
そこにはいくつかの要因が作用しているが、もっと重要な要因の一つは、自治体を設置者とする公立大学の予算運用を規定しているところの地方自治法に基づく会計制度が、今日の公立大学効費の量的拡大と弾力的運用という切実な要請に適合しなくなっていることにある。近年国公立大学の大学の運営・財政的側面における自主性を強化しようとする動向があり、その方法について議論がなされているが、現行の当該会計制度が少なくとも自主性の方向自体に照らして問題を抱えていることは確かである。以上のような問題意識に立ち、公立大学の予算システムを規定している現行会計制度の改善を強く求める立場から、当該会計制度に関する検討を行い、その結果を整理・集約したのが本章である。
地方自治法に基づく地方自治体の会計制度のうち、校費を中心とする公立大学の教育・研究予算の運用にとりわけ大きい影響を与えているのは、①年度一括の総計予算主義、②会計年度独立の原則、③歳計現金と歳入歳出外現金の区別、及び、後者の扱いをして年度繰り越しをする事への厳しい限定、④節の区分、とりわけ需用費と備品購入費などの節別を越える流用への強い規制、⑤特別会計設置への規制といく5つの特徴である。
これらの特徴は、本来、地方自治の担い手であり、税の負担者である自治体の住民本位の会計制度を確率する志向を反映したものであるが、今日では、さまざまな場面で公立大学の予算運用の弾力化の阻げる役割を果たすことも少なくない。とりわけ、90年代以降、大学における研究活動の高度化の進展と企業のキャッチアップ型体質脱皮志向の高まりを背景とし、大学の自治の枠組みを維持しながら大きく発展してきた大学への民間資金等外部資金の導入に困難をもたらしている。
今日、公立大学は、こうした外部資金を積極的に導入し、あわせて当該の資金を弾力的に運用するために、上記の5つの特徴のうち、とりわけ、公立大学が受け入れる民間等の外部資金を歳入歳出外現金とし、そのことを通じて、節の区分の問題をも解決し、柔軟な執行が可能になることを痛切に必要としている。本章6の結語では、この点を中心に、現行会計制度に関する合計4つの要望を提示している。
注目すべきことは、文部・自治・通産・大蔵・科技などの関係省庁が去る2月国会に上程された「産業技術協力法案」第13条第2項において、公立大学側の上記の中心的要望に対応する条項が盛り込まれたことである。もしこの法案が成立すれは、民間企業等からの奨学寄付金や委託研究・共同研究において提供される資金は、「負担金、補助金及び交付金」として地方自治体の長から公立大学に交付され、前者については「歳入歳出外現金」として扱うことが認められることになる。本章では、付記においてこの間の経緯を記すとともに、公立大学の教員が、今後、民間及びさまざまな外部の組織・団体と接触するにあたっては、公務員、研究者及び社会人としての良識と激しい倫理的自覚を堅持する必要性にも言及している。
バブル以降、長く低迷するわが国経済のなかで、地方分権にかなりの進展が見られるものの、地方自治体の財政状況は厳しさを増すばかりであり、自主財源比率や経常収支比率等の指標をみる限り、むしろ、地方自治は後退しているといわざるを得ない。しかも、21世紀を迎えても、わが国経済のめざましい回復が期待できないとすれば、いつまでも地方財政の改善は進まないであろう。このような状況の下で公立大学が自の方向を打ち出し、地域社会への貢献を強めていくためには、単に、大学運営の効率化を図るだけでは問題の解決にはならず、あらゆる側面で新基軸を打ち出して行ねばならないが、その場合、地域住民の負担によって公立大学が支えられているこを、常に、念頭に置いておかねばならない。
現行税制を前提にするかぎり、個々の地方自治体がはかりうる税財政拡充の方策は限定されている。ましてや、公立大学が税財政の拡充に寄与できる余地は全くないといってよい。しかし、地方自治の後退がじりじりすすんでいる状態のもとで、各自治体が手をこまぬいて事態の推移を見守るだけでは、なんの解決も得られない。ここは現行税制のもとで各自治体が取り組むべき課題について二、三取り上げ検討してこう。
現行税制のもとでは各自治体がいくら税財源の拡充に努めたとしても、目に見える形で財政状況の改善が図られることは期待できないことを前節でみてきた。むしろ各自治体に与えられた課税権が無理に活用されるときは、税体系自体が歪められ、21世紀の少子・高齢社会にふさわしい税制から、かえって、現行税制を遠ざけてしまうという懸念さえもたれる。したがって、地方自治体の財政状況の改善にあたっては、各自治体がそれぞれ行政の効率化に努めると同時に、税財源の拡充については、国税も含めてわが国の税体系を21世紀に目指す経済・財政の運営の方向に適合した、いわゆる、少子・高齢社会にふさわしい税制として組み立てていく必要がある。その場合、当然、国と地方の間の税源配分についても十分な議論がなされねばならないが、この節では、新しい21世紀の税制を構築するにあたって考慮すべき重要な課題を三つ取り上げ、コメントを加えておこう。
少子・高齢化の進展とともに増大が予想される社会的コストを無理の無い形で納税者が負担していくためには、納税者一人一人に対して、「受益と負担」の対応関係をできるだけ明確にして行かねばならない。これは、公立大学の運営にあたっても整ておかねばならない要件である。すなわち、大学が担う機能・役割を実行していく過程で、地域住民にもたらすさまざまな便益が住民一人一人にどのように帰属していくかをできるだけ明確にすることで、公立大学の運営にかかる経費のうち、公費負担分について納税者の理解を得ることができるのである。そのためには、大学がおこなう教育や研究活動によってもたらされる便益のうち、特定の個人への帰属が明確なものについては、受益者負担の原則に立って、授業料や入学金の形で、受益者負担を求めて行かねばならない。