公立大学協会ニューズレター(Vol. 3, No. 2) ..... 1/4

大学教育に関する中教審答申案と新たな諮問について

11月の学長会議でパネルディスカッションを予定

中央教育審議会においては、「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」(3月25日)に続く同答申に向けた最終調整が行われている中、9月11日に新たな諮問「中長期的な大学教育の在り方について」がなされ、大学に関する制度的課題に踏み込んだ検討が開始されました。

10月9日の公立大学協会第3回理事会では、この諮問等に関連した議論が行われ、11月13日(木)に秋田県立大学で開催する平成20年度学長会議において、答申案と新たな諮問を中心に、意見交換の場を設けることとしました。

今回の諮問に対して具体的な審議を開始した「大学の検討に関する作業部会」座長の荻上紘一大学評価・学位授与機構教授と文部科学省の久保公人審議官の講演を受けて、公立大学の将来像について議論を深めていく予定です。

今号では学長会議の開催に先立ち、佐々木会長からの問題提起を以下に掲載いたします。

大学教育に関する中教審答申案と新たな諮問について

公立大学協会会長 佐々木雄太(愛知県立大学長)

中教審大学分科会は、本年7月、答申案「学士課程教育の構築に向けて」(以下、「答申案」)をとりまとめた。これに続いて9月11日の中教審総会において、文部科学大臣は「中長期的な大学教育の在り方について」新たな諮問(以下、「諮問」)を行った。「諮問」は、

  1. 社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度および教育のあり方について
  2. グローバル化の進展の中での大学教育のあり方について
  3. 人口減少期における我が国の大学の全体像について

の3点にわたっている。このような動きは、日本の大学教育あるいは国の高等教育政策が新たなステージを迎えつつあることを示している。以下、「答申案」および「諮問」の最も重要な点について、検討すべき問題を提起したい。

1 「多様性」から「標準性」へ

今日、我が国の学士課程教育は、「量」の拡大を積極的に受け止めつつ、「質」の維持・向上を図るという重大な課題に直面している、とする「答申案」の認識は、今後の大学の方向を考える上で重要な指摘である。「答申案」も自戒する通り、「規制緩和」によって「新規参入を促進し、学生獲得の競争を活発化させる」という従来の改革の考え方が、「無秩序」や日本の大学全体の「信用や信頼性の失墜」を招いていることを率直に認めなければならない。そこで、「答申案」は、「学士」の質保証を図るためには「競争と協同の調和」と「多様性と標準性の調和」が必要となっているとし、これまでの「競争」と「多様性」重視の方針を修正する方向を打ち出している。

従来の路線の結果、「学位の保証する能力の水準が曖昧になり、学位の国際的な通用性を失う懸念」が生じている状況を踏まえるならば、こうした修正の提言を積極的に受け止めるべきと考える。しかし、「答申案」が示す「規制緩和路線」から「規制路線」への方向転換には重大な懸念なしとしない。中教審大学分科会によるヒアリングの際に、公立大学協会や日本私立大学団体連合会が指摘したのは、「多様性」に替わる「標準性」の追求が、実際には必要以上の規制の強化につながる危険性である。

例えば、大学設置審査に際して「大学の要件を明確に示し、厳格化すべきものは厳格化する」という「答申案」の提言には賛成できる。しかし、度を過ぎた審査の厳格化は大学における教育・研究の画一化を招きかねない。また、「標準性」を担保する方法として「コア・カリキュラムの策定」などが示されている。その必要性は一応理解できるが、高等教育に学習指導要領のようなものが導入されるならば、角を矯めて牛を殺すことになりかねない。同一の分野、同一の授業科目であっても、大学における教育の場合は、その名称や内容が大学によってあるいは教授者によって異なって当然だからである。健全な常識や通説を教える「社会科」や「理科」と最先端の研究に裏付けられるべき大学教育との違いや、個々の大学の個性の維持の必要性を充分にわきまえた「標準化」でなければならない。

公大協や私大団連の意見に応えて「答申案」は、「国においては、必要な改革を果断に進めながら、新しい教育基本法の謳うとおり、大学の自主性・自律性を十分尊重するという姿勢を堅持していく必要がある」と述べているが、これが単なる枕詞に堕さないためには、国の配慮とともに、大学の側の自主的・自律的な改革姿勢が不可欠であると考える。

2 「学士課程教育」概念と「大学の機能分化」

「答申案」は、修士・博士課程へつながる「学士課程教育」という概念を広く共有すべきことを提言している。また、新たな「諮問」は「学生本位の視点」に立った大学教育のあり方の検討を求め、「学部・学科や研究科といった組織に着目した整理」に代えて、大学を「学位を与える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要がある」ことを強調している。

まず、「答申案」が提示する「学士課程教育」概念や「学習成果」概念が、直ちには分かりにくい。「学士課程教育」は学部・学科・研究科といった「縦割りの組織」に対置される。また、「答申案」は「分野に即した『学習成果』」に対して「学士課程全体を通じた『学習成果』」概念を強調するが、「学習成果」も「縦割りの壁を破る」概念なのであろうか。この点は、新たな「諮問」が問う「制度論」を重ねると、その含意が理解できる。すなわち、大学を「学位を与える課程中心の考え方に再整理していく」という考え方は、研究(組織)と教育(組織)の分離を、ひいては「大学の機能分化」の推進を含意しているのである。

義本大学振興課長の説明によれば、「答申案」は主として「理念論」として大学に投げかけたものであるのに対して、「諮問」は「制度論」を含めた提言を求めるものである。研究と教育の「組織的・制度的」あり方が、そして「大学の機能分化」の「制度的」推進にかかわる提言が求められているのである。德永高等教育局長は、国立大学法人の会合において、今回の「諮問」は「機能分化を初めて明確に打ち出した」とし、「機能分化には大学制度の再編成、人口減少における大学全体のあり方、地域レベルでの人材育成などに対して大学がどのようにかかわっていくかということ、国立大学・公立大学の役割分担、私立大学も含めて大学のあり方、道州制など地方分権にかかわることなど大きな問題があります」と述べている(「文教ニュース」9月29日号)。

国・公・私を含めた「我が国の大学の全体像」が、理念論、制度論の両側面を含めて検討の俎上に載せられようとしている。公大協は、公立大学のあり方を軸にしつつ、しかし今後10年先の「大学の全体像」を視野に入れた大学論を、中教審における議論に遅れをとることなく進めていかなければならないと思う。

平成20年度学長会議 パネルディスカッション

テーマ:「中長期的な大学教育の在り方について」(中教審への大臣諮問)をめぐって

文部科学省講演:久保公人 審議官

基調講演:荻上紘一 大学評価・学位授与機構教授

パネリスト:久保公人 審議官

       荻上紘一 大学評価・学位授与機構教授

       中島秀之 公立はこだて未来大学長

       竹葉 剛 京都府立大学長

       草間朋子 大分県立看護科学大学長

司 会:小林俊一 秋田県立大学長

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